劉廷個展「旅の記憶」

旅は、私にとって人生に欠かせない一部である。一人で旅に出ることは、まるで自分自身と深く対話するような時間。旅の途中、私は静かに思索を巡らせ、内なる自分にそっと近づいていく。

これまで十年以上、一人旅を続けてきた。

旅の中で見たもの、感じたことは、そっと記憶の奥、深くに沈んでいった。振り返るたびに、それらは古いフィルムのように、心の内側をゆっくりと流れていく。

時に沈み、時に鮮やかだ。

昨日のことのようにくっきりと残る記憶もあり、時の流れの中で少しずつ色あせ、ぼやけ、破砕。やがてそれらは、記憶の断片となり、時間のフィルターをかぶせながら、心のどこかで眠っていた。

私はその断片の中から、旅の情感をもう一度すくい上げようとしている。それは、孤独と自由が交差し、憂いと静けさが共に息づくような感覚。決して美しいことばかりではないけれど、常に真実を映し出している。

私にとって絵を描くことは、音のない日記のようなものだ。感情を込めた絵の具で、記憶の断片をひとつひとつキャンバスに重ねていく。それは再現ではなく、沈殿であり、記録ではなく、「心の表現」である。

私の作品は、具体的なストーリーを語るものではない。けれど、一枚一枚の中に、旅の記憶が静かに息づいている。

色彩や筆致は、過去とのもっとも親密な対話であり、それは私が自分自身を解きほぐし、過去を抱きしめるための手段なのだ。